部落差別に立ち向かって ~理事長退任にあたって~
珍さんの折々の記
公益財団法人 朝田教育財団 松井珍男子 著
2019年6月に退任した、松井珍男子前理事長。
理事長在任中の2009年3月から2019年3月までの10年間、財団だよりに理事長挨拶を執筆してきました。
11巻の「理事長就任にあたって」から20回に及ぶ挨拶は、朝田教育財団30周年、水平社創立90周年、戦後70周年の節目、マスコミの部落差別の認識の深化など、
その折々にふさわしいものを執筆されています。
理事長退任にあたって、理事長の巻頭言、松井顧問の財団の諸行事や様々な集会での挨拶原稿も併せて掲載し、発刊することといたしました。
朝田善之助全記録
朝田善之助が差別と闘いつづけた人生の足跡を紹介するだけでなく、部落問題の真の解決を願い、実践されているみなさまに、部落解放運動のあるべき方向性を追求している。『朝田善之助全記録』全55巻を刊行しています。
同和教育研修会報告
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「差別行政反対闘争の萌芽」
後藤 晨次(京都市社会教育総合センター事務局長、故人)
1982年6月12日,『同和教育研修会報告第1回』
1951年のオールロマンス闘争で「差別行政反対闘争」という闘争形態が明確に打ち出され、解放運動が大きく発展した。
この闘争形態の萌芽として、1935年に起きた漆葉見竜京都市社会課長の差別事件を取り上げ、その経過と闘争の意義について述べる。また、元・京都市役所職員の小川広之助氏の補足説明も加える。 -
「部落の児童・生徒における差別の現象形態」(研究発表)
小山 逸夫(京都市立崇仁小学校教諭)
1982年6月12日,『同和教育研修会報告第1回』
差別の捉え方の発展との関わりにおいて、京都市の同和教育の状況を検討し、更に部落の児童・生徒にみられる差別の現象形態としての学力格差を資料に基づいて指摘する。その格差の解消こそ同和教育の課題であると主張する。
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「オール・ロマンス差別事件の前後について」
鈴木 棋(京都文教短期大学講師、元・京都市住宅局長)
1982年10月6日,『同和教育研修会報告第2回』
戦中戦後を通じ、京都市職員として同和事業に携わるなかでの人々との関わりや、民生局福利課長として経験したオール・ロマンス事件の舞台裏などについて語る。
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「当面する同和教育の実践的課題について」(研究発表)
竹口 等(京都市立月輪中学校教諭)
1982年10月6日,『同和教育研修会報告第2回』
部落の生活実態の調査結果などをもとにして、部落の児童・生徒が差別の本質に制約された社会的立場におかれていることを指摘する。学力の相対的低位を主因とする質的格差を克服した進路保障が同和教育の課題であると訴える。
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「《同和教育方針》策定の前後」
池田 正太郎(京都市教育委員会 教育委員長)
1983年11月12日,『同和教育研修会報告第3回』
小・中学校の現場で同和教育の先駆的な実践を行った経験を通して見た、「京都市同和教育方針」のもつ意義とその果たした役割の大きさについて語る。
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「同和教育実践の基本問題」(研究発表)
井本 武美(京都市立郁文中学校 教諭)
1983年11月12日,『同和教育研修会報告第3回』
解放運動への積極的な参加と学校現場でのさまざまな体験から、とくに学校教員に対して、部落差別についての認識のより一層の深化の必要性を訴える。
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「同和教育の意味するもの」
米田 貞一郎(京都学園大学 教授)
1985年3月16日,『同和教育研修会報告第4回』
50年間におよぶ同和教育の実践を、戦前は伊東茂光氏(崇仁小学校校長)、戦後は大橋俊有氏(京都市教育長)との関わりとエピソードを中心に回顧し、今後の同和問題解決の道筋について考える。
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「地対協《意見具申》と同和教育の課題」 (研究発表)
森本 弘義(京都市立朱雀第四小学校教諭)
1985年3月16日,「第4回同和教育研修会報告」
1984年6月に地域改善対策協議会が出した「今後における啓発活動のあり方についての意見具申」の内容を詳細に分析する。部落差別の現象を本質で捉えず、現象の変化や派生的な問題の目を奪われいる、また部落問題解決のために市民的権利─とくに就職の機会均等の権利─を保障するという基本的課題を隠しているなど、その批判を展開する。
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「今、同和教育に望むこと」
田村 正男(朝日新聞社 編集委員)
1986年3月14日,『同和教育研修会報告教育研修会報告第5回』
新聞記者として長年にわたる同和問題との関わりから得た「同和問題を学ぶのは、理屈を並べた理論ではなく、人間の生き方を見て学ぶことである」という信念に基づき、具体的な事例を挙げながら、知識中心主義に陥っている同和教育の現状について直言する。
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「同和問題についての教科書の記述」(研究発表)
藤本 啓次(京都市立八条中学校教諭)
1986年3月14日,『同和教育研修会報告第5回』
中学校社会科歴史教科書のなかで、とくに江戸時代に焦点を当て、そこで取り上げられている部落問題の記述について、問題点を指摘し、具体的な指導のあり方について述べる。
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「部落問題と映画」
依田 義賢(シナリオライター、故人)
1986年12月9日,『同和教育
研修会報告第6回』映画「山椒太夫」のシナリオ作家として、作品に対する差別糾弾を通して接した朝田善之助から受けた教えやその人柄を語る。
教師が自分の力で同和問題についての「わたしの映画」を作ることの必要を訴える。 -
「同和問題についての教科書の記述」(研究発表)
辻浦 厚(京都市立伏見住吉小学校教諭)
1986年12月9日、『同和教育研修会報告第6回』
江戸時代から近代にかけての部落問題に関し、教科書においてどのように記述されているかを詳細に分析する。とくに、部落差別における経済的理由(差別の本質)の記述が不十分であることを指摘する。
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「これからの同和教育」
吉岡 克巳(京都市教育委員会 生徒福祉課 統括首席指導主事)
1987年11月6日,『同和教育研修会報告第7回』
同和地区の子供たちを取り巻く生活環境が以前に比べると変化して来ていることを認めながら、なお存在する格差の是正を図り、社会的自立を達成するための取組みの重要性を指摘する。これからの同和教育の在り方についての提言を行う。
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「AAI(新学習適応性検査)結果の分析と考察」(研究発表)
小山 逸夫(京都市立崇仁小学校教諭)
1987年11月6日,『同和教育研修会報告第7回』
AAIとは学習者が学習場面における種々の障害を乗り越えて、能力相応あるいはそれ以上の学習効果を上げて行く傾向(学習適応性)を持つているかどうかを調べるテストである。そのテスト結果を細かく分析することにより、同和地区児童の学習適応性が全国のそれと比べて大きな格差があることの原因を追求し、解決の方法を考える。
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「再び語る《オール・ロマンス》差別事件」
鈴木 棋(京都文教短期大学 講師)
1988年11月16日,『同和教育研修会報告第8回』
オール・ロマンス差別事件当時、行政における実務担当者であった経験を踏まえ、事件が単に偶発的に起きたものではなく、社会問題、行政問題として起こるべき必然的側面をもっていたと捉え、朝田善之助の思い出も含め、具体的事実を挙げて語る。
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「今春の高校進学と部落差別」(研究発表)
小山 逸夫(京都市立崇仁小学校教諭)
1988年11月16日,『同和教育研修会報告第8回』
1988年(昭和63年)春の同和地区生徒の高等学校進学率が低下して90パーセントを割り、特に普通科2類への進学者がわずかであり、これを大学進学への道が阻まれている状況であると捉えた。部落の子供たちの高等学校進学、大学進学にみられる相対的格差が解消され、社会の発展に照応した学力─大学生がより多く育つような状況を生み出すことが、部落問題解決のための教育の大きな課題であると訴える。
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「勉強にまけるな」
後藤 晨次(京都文教短期大学 教授、故人)
1989年11月16日,『同和教育研修会報告第9回』
部落の子供の学力を保障していくことを最大の目標とする「京都市同和教育方針」を実現するためには「愛によって浸された教育」(ラッセル)が大切であるとし、教師に、子供を伸ばしていくのに必要な科学、部落の子供がおかれている社会的立場についての科学をもつことを訴える。そして、子供たちには、「勉強に負けるのは差別に負けることだ」との自覚を持たせ、まじめに勉強する部落の子供を育てる教育を確立することの重要性を独特の語りで強調する。
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「最近の生活実態から」(研究発表)
笹原 義広(京都市立西京商業高等学校教諭)
1989年11月16日,『同和教育研修会報告第9回』
各種の部落の生活実態調査の結果を分析し、「部落は良くなった」「差別はなくなりつつある」という考えに反論する。教育から見る部落の現状と、就職の機会均等の権利に見る部落の状況に焦点をあて、差別の本質である就職の機会均等の権利の保障と、それを裏付ける教育の機会均等の権利保障の実現を強く訴える。
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「差別の自覚と自己解放」
谷口 修太郎(「部落差別と宗教」研究会)
1992年2月5日,『同和教育研修会報告第10回』
差別に対する自覚とそこから自己を解放してゆくための基本となる「人間とは何か」「人間として生きるとはどういうことか」を常に問い続けて歩んだ道を振り返り、運命や人生を自ら切り開く生き方について説く。
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「部落の乳幼児と部落差別─親の生活・子の生活─」(研究発表)
辻浦 厚(京都市立深草小学校教諭)
1992年2月5日、『同和教育研修会報告第10回』
自らの経験を通して認識した、部落の乳幼児とその親たちの生活の中に見られる差別の実態を、同和保育所などの状況や各種調査などをもとに明らかにする。そして、若い親たちに、就職の機会均等の権利の保障や教育への関心を向上させることの重要性を強調する。
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「京都市同和教育方針策定の頃と今」
パネラー:米田 貞一郎(元・全国同和教育研究協議会委員長)、佐々満郎(元・八幡市教育長)、枩田昌弘(元・京都市立高野中学校校長)コーディネーター:後藤晨次(京都文教短期大学教授、故人)
1993年3月2日,『同和教育研修会報告第11回』
部落の子供の学力向上を同和教育の至上目標とする「京都市同和教育方針」は1964年(昭和39年)に出され、どのような経過を経て策定されたのか、そのころの学校現場の取組みの状況やその方針の受け止め方はどうであったのかなどの問題点を、3人のパネラーが小・中・高の現場での体験をもとに語り、会場からの質問や意見にも応える。
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「学力向上と教育条件─小学校教育について─」
佐々 満郎(京都市教育委員会生涯学習チーフアドバイザー、元・京都市立養正小学校校長)
1994年3月10日、『同和教育研修会報告第12回』
養正小学校の「参考書支給差別事件」を、同校の同和教育と教職員の主体的実践が厳しく問い正された事件として受け止め、その後、同校で取り組まれた抽出促進指導や読書指導などの具体的実践に触れると共に、小学校では生徒の経験の量と質の保障が重要であると主張する。
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「大学進学と部落差別」(研究発表)
山崎 良一(京都市立深草中学校 教諭)
1994年3月10日,『同和教育研修会報告第12回』
京都市域の部落出身生徒の進学率・進学先・進路状況の推移を示す詳細なデータに基づき、部落の生徒の大学進学率が京都市全域と比べて約3分の1にとどまり、特に大学進学率が高い高等学校への進学者が少ないことを指摘する。部落の生徒に大学進学を実現する学力をつけることが、今後の同和教育の課題であると説く。
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「部落差別と教育─親として願うこと─」
パネラー:若井 敬子、笹原 豊子、加藤満義、粟原ちづ子、前川正明、コーディネーター:後藤晨次(京都文教短期大学教授、故人)
1994年11月25日,『同和教育研修会報告第13回』
京都市の「進学ホール」などで学んだ経験をもつ5人のパネラーが、自らの生い立ちや青年期の体験を通し、さらに現在、父親や母親として子供に接して感じる、学校や社会に対する願いや課題について率直に語り合う。
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「同和教育の課題─克服すべき対象としての差別意識─」
中尾 健次(大阪教育大学教育実践指導センター教授)
1996年2月20日,『同和教育研修会報告第14回』
子供の成長段階における差別意識の形成について、自己の経験や具体的な事例をあげて説明し、さらに、小学校における部落史学習の在り方や問題点など、今日の同和教育の課題についても言及する。
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「部落の生活は《今》どうなっているのか─京都市の実態調査から─」(研究発表)
丸山修(京都市立松尾小学校教諭)
1996年2月20日、『同和教育研修会報告第14回』
「京都市同和地区住民生活実態把握事業実施報告書」を詳細に分析することにより、「所得制限」導入などに見られる京都市行政の姿勢、個人給付事業の対象から外されようとしている年収500万円以上の部落の所帯の実態などの問題点を指摘する。今日の部落の子供たちの教育状況とこれからの同和教育の在り方について考察する。