理事長よりごあいさつ

「朝田教育財団だより 第41号 2024年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

残暑お見舞い申し上げます

平素より、朝田教育財団の運営並びに様々な活動に対しまして、多大なるご理解とご支援をいただいておりますことに深く感謝申し上げます。
当財団も6月の理事会・評議員会におきまして、新たな年度のスタートを切りました。前年度は、奨学生が4人に増加し、「朝田善之助賞」の創設や奨学金減免制度の導入など新しいことに挑戦しながらも皆様のお力添え・ご支援のお蔭をもちまして、前進を実感することが出来ました。重ねて御礼申し上げます。

■松井孝治京都市長の始動
今年の2月25日、4期16年の実績を残し、門川大作京都市長が勇退され、後任の第27代松井孝治市長が誕生しました。そして、松井市長は、就任早々の3月市会で「いのちとくらしを守る防災・減災対策」と「市民生活と観光の調和に向けた観光課題への対策」の2点を重点に第一次予算を編成し、続く5月市会では、「突き抜ける世界都市京都」の実現に向けた基盤づくりの第二次予算を編成されました。就任されて約半年、松井市長は、既にエンジン全開で活躍されておられます。
松井市長が参議院議員時代から、当財団の初代事務局長の朝田善三氏は、親しくお付き合いをされており、私自身も交流がありましたので、4月9日に当財団として、松井珍男子顧問、朝田華美副理事長・竹口等事務局長・鍵村信夫事務局員、そして、㈱近畿建物の朝田佳鶴子社長と共に激励の訪問をさせて頂きました。松井市長は、参議院議員の後10年間、大学教授として学生を育てる職に就いておられただけに、当財団の「部落問題解決に資する有為な人材の育成」としての奨学事業、奨学生の育成に対するご理解を得るとともに、財団の活動等にもご支持をいただきました。今後の財団の活動にも連携を図っていただけると期待しています。
そして、京都市政の課題解決や一層の発展に向けて、松井市長が味わい深いお人柄や素晴らしい持ち味を発揮され、ご活躍されますことをご祈念申し上げます。

■奨学事業の充実
さて、当財団の目的は、「部落問題解決に資する有為な人材の育成」であります。とりわけ若い人、大学生の支援を通してそれを実現するところにあります。正に「奨学事業」であり、本年度も積極的に取り組んでまいります。
現在、財団の奨学生は4名ですが、今年に入り、当財団の奨学金制度について現役の学生からの問い合わせが増加しています。また、現在の奨学生からは、今後の財団運営に関心を示す人材も見受けられます。さらに奨学金返還免除の対象になる資格取得や職種へのチャレンジをする奨学生も出てきています。
こうした若い力が、これからの財団運営を支える基盤が構築されることと期待しています。この奨学事業が、今後の財団の方向性を具体的に示すこととなると考え、大いなる期待を持ちながら、「奨学生の集い」に参加させて頂くことを楽しみにしています。

■第42回同和教育研修会の成功
今年の「第42回同和教育研修会」は、朝田善之助初代理事長の誕生日に当たる7月4日に開催することが出来ました。多くの方々にご参加いただき成功裏に終えることが出来ました。ありがとうございました。当日の研修会では、大阪公立大学の阿久澤麻理子先生に「部落差別の現代的変容~各地の人権意識調査から~」と題してご講演をいただきました。部落問題の認知経路では、若い世代に「学校の授業で教わった」が多いが、差別を「個人の言葉や態度で表明されるもの」と限定的に見る傾向も報告がありました。部落問題への認識が得られず、容易に「偏見」に影響され、差別意識に繋がる現状は、学校における人権教育、とりわけ部落問題学習の在り方に言及されました。
また、阿久澤先生の市民意識調査の結果、日常生活における部落差別の現れ方も「結婚」から「土地の忌避」が多くなった変化も明らかにされました。この「土地の忌避」への変化について「差別が社会システムに組み込まれている」ことへの懸念も示されました。先生のご著書『差別する人の研究』(旬報社)でも詳しく触れられていますが、これは、私たちに課せられた課題であります。財団の奨学生の皆さんが、こうした課題の克服にリーダー的役割を果たして頂けるようになることを目指し、改めて当財団としての使命感を実感した次第です。
阿久澤麻理子先生には、様々な意識調査の結果を踏まえて、同和問題の現状と今後の課題等、示唆に富んだご報告を熱く語っていただき参加者一同、大いに勉強させていただきました。改めて、阿久澤先生にお礼申し上げます。誠にありがとうございました。

■「朝田善之助賞」の充実を
朝田善之助初代理事長が目指された「人材の育成」を具現化し、部落問題の解決に欠かすことの出来ない理論と実践及びその研究を推進するために創設した「朝田善之助賞」。その初年度の応募は5件。個人3人と1グループ、1団体の全てに意欲的で積極性が伝わって参りましたので、それぞれを助成させていただきました。現在、それぞれに研究を進めていただいているところであります。研究成果は、11月末に提出されますが、「朝田善之助賞」に該当する素晴らしい研究成果が生まれることを期待しています。昨年、「5年間の継続事業」として創設いたしましたので、今年度も「朝田善之助賞」を募集いたします。一層、充実をさせたいと考えていますので、どうかふるってご応募いただきたいと存じます。よろしくお願いします。

■人権獲得の歴史に朝田委員長
5月3日は、国民主権,平和主義と基本的人権の尊重を定めた日本国憲法が施行された憲法記念日。その翌日の朝日新聞に「憲法の平等原則 一人ひとりが使って生かす」と題した社説がありました。平等性を欠いた明治憲法から大きな転換となる憲法の施行であったが、差別や不平等が様々な形で存在している。気づいた人が声を上げないと不条理は変わらない。憲法の理想を追うため「意識し、使ってこそ、それぞれの規定は命をもつ」とありました。
今年は、日本国憲法が公布・施行されてから77年。人間で言えば「喜寿」を迎えたことになります。
今、憲法改正の議論が高まっていますが憲法14条「国民が主権者であり、法の下の平等で、人種、信条、性別などで差別されない」原則は変えてはならないと存じます。そして、部落問題をはじめとする今日の様々な人権課題の解決に向けましては、77年間の社会の発展に照応して、更に充実した運営がなされることが望まれます。
国民の基本的人権が保障されていると言われますが、日常生活の中で社会意識として入り込む差別観念を考える時、黙っていて保障されるものでもありません。
朝田委員長は、戦後いち早く部落解放運動を再建し、差別との闘いに立ち上がられました。そして、「差別の命題」や「三つの命題」と呼ばれる「部落解放理論」を構築し、その後の絶え間ない闘いによって、部落問題解決の道筋に一定の方向性を示されました。こうした闘いは、他の人権課題の解決に取り組む運動にも大きな影響を与えたことでしょう。
「命題」とは、「実践的・理論的に証明されているもの。」と言われます。朝日新聞の社説にもありますように、理論が力(命)を持つのは、「命題」そのものを意識し、実践に使ってこそ理論が生きてくる…と朝田委員長の言葉に通じるものを感じています。
単に「旧いから」「社会が変化したから」というのではなく、「命題」に基づいた実践を通して現実の社会をどう分析するかが大切であります。社会がどのように変化し、その中で、部落あるいは部落の人々がどのように位置付けられているのかを明らかにする実践力こそが「命題」であると考えます。それは、今後の私たちの活動の指針ともなるべき大切なものです。

■社会情勢の変化と結び
AIコンピュータに代表する科学技術の進展が目覚ましい一方で、2036年には、3人に一人が65歳以上となるという長寿化、少子化・子どもの貧困化、地球温暖化を始めとする環境問題等の山積する社会的課題があります。
京都駅近くの崇仁地域では、昨年に京都市立芸術大学が移転し、大学や学生と地域の皆さんの交流が展開されています。
先月には、「旧優生保護法」が憲法違反とする初めての最高裁の判決がありました。
こうした社会情勢が変化する中で、当財団は、単に部落問題の解決の一翼を担うというだけでなく、そのネットワークをリードする組織として発展することが、社会的役割を果たすことになると認識しております。
朝田善之助初代理事長が設立された財団の趣旨、それを繋いできて頂いた歴代の理事長や役員の皆様のご尽力を振り返り、何よりも私たちに対し、日頃から真っ直ぐお元気な姿でご指導を賜っています松井珍男子顧問のお支えを得ながら、朝田教育財団は、「進化」する活動を通して、社会的役割が果たせる組織となるよう努力を重ねます。

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

略歴
みずた まさひろ
1953年12月14日生まれ。
立命館大学卒業。
1977年 京都市役所入庁。
教育委員会、総合企画局市長公室長、伏見区長、
京都市交通政策監、京都市公営企業管理者を歴任。
2016年3月退職。
現在、京都ステーションセンター株式会社 代表取締役専務
立命館スポーツフェロー 会長
立命館大学体育会ソフトテニス部 統括監
立命館大学校友会 常任幹事
近畿ソフトテニス連盟 副会長
京都市体育協会 理事 などを務める。

「朝田教育財団だより 第40号 2024年1月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

謹賀新年 ~2024年の新しい年を迎え~

2024年(令和6年)辰年の新しい年を健やかにお迎えになられたことと、お慶び申し上げます。
平素から当財団の運営に多大なるご支援・ご協力を賜り、心から感謝申し上げます。
昨年は、第41回同和教育研修会や奨学生の集いの開催をはじめ、研究活動を支援する「朝田善之助賞」の創設など研究事業を一歩進めることが出来ました。また、新たに奨学生を一人加え3人となり財団運営の前進を実感しております。これもひとえにご支援を頂いている皆様のご理解とご協力の賜であると、重ねて御礼申し上げます。

■門川市長のご勇退
今年は、京都市にとりまして重要な新年を迎えています。昨年8月に門川大作京都市長がご勇退を発表されました。2月には、新しい京都市長のもとで京都市政が始まります。
当財団は、門川市長の4期16年の間、様々な事業に足を運んで頂き、その都度、熱い言葉、温かい激励を頂いて参りました。
年頭の「財団だより」でございますが、門川市長の4期16年間のご功績を紹介させて頂きます。

■市長就任と厳しい行財政
2008年2月、57歳で京都市長に就任された門川市長は、「これからの京都は、環境・観光・健康・教育・子育て・国際化・高齢化・公共交通などが大切。全てに『K』で始まる課題の克服に挑戦する。」との意気込みでスタートされました。しかし、就任直後に「リーマン・ショック」と言われる世界的な金融・経済危機に見舞われたのです。
その影響で、市税は、過去最大に減少し、市バスや地下鉄を含む連結決算で306億円の赤字財政。それに加え、国と地方の税財政関係を抜本的に改革する「三位一体改革」により、地方交付税もピーク時の半減となる大幅な削減など京都市財政は、破綻に近い状況に陥っていました。
こうした中、門川市長の行財政改革は、あらゆる事業の見直しに始まり、市職員4千人超の削減、宿泊税導入、ロームシアターや京セラ美術館などネーミングライツ導入、交通局の駅ナカビジネス等々、次々へと断行されました。市民と共に汗する「共汗」、市民の視点に立った政策の「融合」、そして、自らが「現地・現場主義」を貫きながら、率先して現場に足を運ぶ門川市長は、当初、京都市職員にとって、職員は減らすわ、仕事は増やすわ、現場を知り尽くすわ、大変な存在でした。
しかし、門川市長は、厳しい行財政改革を断行し、全国トップ水準の福祉・教育・子育て支援・安全安心・文化を基軸とした都市経営を推進されました。
そして、2020年2月には、未来への責任を果たすため、財政再建、持続可能な行財政の確立を何としてもやり切るとの強い信念の下、4期目の市長職に就き、いよいよ本領発揮という時、「新型コロナウイルス感染症」が猛威を振るったのです。
それでも「挑戦と改革」のもと「財政再建」を実行し続け、2022年度決算で21年ぶりに「特別の財源対策」から脱却、22年ぶりに単年度赤字を解消し、過去最大となる77億円の黒字を実現。将来世代に過度の負担を先送りしないという改革を進め、4期目の大詰めを迎えています。

■4期16年間のご功績
行財政の改革だけでなく、明治以来初の中央省庁「新・文化庁」の京都移転や京都市立芸術大学の崇仁地域への移転など数多くのご功績がありますが、その一端をご紹介させて頂きます。

(ハード事業整備)
・京北トンネル
・四条通歩道拡幅
・雨水幹線「塩小路」「山科三条」
・京都駅八条口駅前広場
・阪急洛西口駅付近立体交差化
・東本願寺前市民緑地
(行政関連施設)
・DV相談支援センター
・中央食肉市場新施設
・市役所本庁舎・市会議場改修
・中央市場新水産棟
(府・市協調での施設)
・京都総合観光案内所
・京都動物愛護センター
・きょうと生物多様性センター

その他にも環境・観光・国際化・まちづくりと幅広い範囲で条例化や計画策定などに着手されるとともに「文化」の分野では、祇園祭・和食・風流踊が「ユネスコ無形文化遺産」、琵琶湖疏水が「日本遺産」に登録され、「教育」では、小・中学校の学力が全国トップ水準となるなど京都のまちは、大きく前進致しました。

■当財団と門川市長
門川市長は、一人ひとりが尊重される「人権文化の息づくまち」の実現に尽くしてこられました。2018年12月10日には、京都市美術館別館前の「全国水平社創立の地」記念碑に説明板を設置され、当財団の事業にも常に揺がない姿勢で出席して頂きました。
2013年10月の「朝田はなさんを偲ぶ会」では、「朝田委員長とはなさんの遺伝子、懸命に闘われた精神が多くの方々の血となり、肉となっていることを確信」と語られています。2018年4月の「朝田善之助記念館・竣工式」では、「朝田委員長の歩みと蔵書を後世に伝える記念館は、自然との共生、人に優しい建物を目指された。」7月の「完成記念の集い」では、「ヒノキ造りの記念館、一本一本は弱いが、重ねて組んで使えば何よりも強い…この記念館こそ朝田委員長の哲学。」
2022年7月の「朝田善之助生誕120年、財団設立40周年記念の集い」では、「戦争は最大の人権侵害。差別を許さず、明日の社会を担う人材を育成する財団は、京都の宝。」と高い評価を頂きました。

■回想
松井珍男子財団顧問、前京都市長の桝本賴兼様と共に私の人生の師匠のような存在であった門川市長との出逢いを振り返らせて頂きます。47年前に教育委員会に採用され、学校指導課に席を置きながら、毎日毎日…起案した書類に対し、総務課の門川さんから細かく、厳しい指摘を受けていました。当時は、苛立ちを覚えることも多かったのですが、2年後に私も門川さんと同じ係に異動。以来16年間、連日深夜まで、上司である門川さんに仕事や飲酒を通してご指導頂きました。
桝本市長就任の際に秘書課に異動しましたが、12年後の2月に門川京都市長が誕生。その直後に『歩くまち京都』を進める交通政策監、2期目に公営企業管理者上下水道局長を命じられました。当時から、自ら率先して「現地・現場主義」、自らの目で「何が本当の真実なのか?」を揺がずに追及する姿に多くを学びました。
当財団の事業を進めるにあたり、私自身が「何が本当に真実なのか?」を揺がずに追究する姿勢を心がけて参りましたが、様々な機会に朝田委員長の「語録」に触れ、根底に流れる理念に共通するものを感じています。
京都のまちの確かな歩みにリーダーシップを発揮された門川市長の4期16年間に対し、感謝の意を表したいと存じます。

■「差別されない権利」の承認
さて、インターネット上における「全国部落地名公開」事件に関する裁判は原告、被告双方が最高裁へ上告するという形で現在も裁判闘争が続けられています。昨年6月28日には、東京高等裁判所において「人は誰しも、不当な差別を受けることなく、人間としての尊厳を保ちつつ平穏な生活を送る人格的な利益を有する」として、「差別されない権利」(人格権)が認められました。法的にも保護された利益ではありますが、改めて「差別されない権利」が普遍的であることを示されたものと存じます。

■財団の社会的使命
年が変わりましても部落問題の解決を巡る状況の厳しさは変わるところはありません。その一つに活動に取り組む方々に「高齢化」の波が押し寄せ、少数化している現実がございます。それは、「理論的水準」の質の継承も重要な課題となっています。
「三つの命題」は、部落解放運動を飛躍的に発展させました。「朝田理論」という言い方がされていますが、運動における様々な闘いと議論の中から生まれたものが、「解放理論」として結実したもので、部落解放運動の歴史と伝統に名を刻むものであります。
当財団の社会的使命は、朝田委員長が残された部落差別についての客観的理解、「質の高さ」を継承・発展させ、部落問題解決に向けた道筋を示すことであると考えています。

■「人権のフロントランナー」として
当財団の公益目的事業「奨学事業」は、本年度、新たに一人の奨学生を受け入れました。財団に集う学生の皆さんが、社会的活動を通して学んで頂き、社会の発展に寄与できる人材に育って頂きたいと期待しています。「奨学生の集い」には、必ず出席させて頂いていますが、「社会に有意な人材」に成長して頂くため、私自身も積極的に発言させて頂きます。
更に、今年度から創設しました「朝田善之助賞」に個人・団体から5件の応募を頂きました。誠に嬉しいことです。部落問題解決に向けた関心の高さを実感するとともに、財団の新しい事業に賛意を表して頂いたものと感謝しています。その内容には、今後の教育活動への提言等も含まれ、今後の「研究成果」にも期待したいと存じます。
2024年度は、こうした財団の事業が一つずつ進化し、「人権のフロントランナー」としてご支援を賜っている皆様の期待に応える年にしたいと考えています。
皆様方にとって、心身共に健康でご活躍できる年になりますよう祈念し、新年の挨拶とします。
本年もよろしくお願いいたします。

「朝田教育財団だより 第39号 2023年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

残暑お見舞い申し上げます!

平素より、公益財団法人朝田教育財団の活動に対してご理解とご支援を頂いていますことに深く感謝申し上げます。
早いもので当財団の理事長を拝命致しまして、5回目の夏を迎えます。しかし、就任の半年後から「コロナ禍」の渦が巻き、当財団の活動にも大きな影響が生じました。
その新型コロナウイルス感染症も5月8日から感染症法上の位置付けが、「5類感染症」に移行され、京都のまちでは、京都三大祭の一つ「葵祭」が5月に4年ぶりに開催され、続いて7月の「祇園祭」では、山鉾巡行・神輿渡御が制限なく従来通り執り行われ、活力の蘇りを感じております。
もちろん「感染症」として残り続けますので、日常的な感染症防止対策を念頭に置き、「With Covid-19」の生活を意識し続ける必要はあります。これまで、感染症防止対策を始め、「コロナ禍」を克服してこられた各界の方々の粘り強い行動に敬意を表します。
そして、この間、当財団と致しましても、設立40周年をはじめ様々な事業を行うことができました。ご参加頂きました皆様のご協力のお蔭と存じ、重ねて感謝申し上げる次第でございます。
社会が新たな時代を迎えようとしている今日、「政(まつりごと)」における「動き」に課題を感じざるを得ないものがありますが、その時々に朝田委員長の「社会意識としての差別観念」を想い起しております。

「G7広島・サミット」が開催され…

5月に日本が議長国となり「G7広島・サミット」(以下「サミット」という。)が開催されました。この会議は、1975年に第1次石油ショックによる世界的な不況の打開策を協議するため、「先進国首脳会議」としてフランスのランブイエで第1回が開催され、以来、カナダや欧州連合、ロシアも加わり、名称も「主要国首脳会議」と変更となり、毎年開催される国際会議です。ロシアは、2014年にウクライナへの軍事介入などにより参加が停止され、今日に至っています。「サミット」発足当時の参加国の世界GDPは、6割強も占めていましたが、今では4割程度。その経済力・政治的影響力の低下は、「首脳国」というより世界の「少数派」と言っても過言ではないでしょう。
今回の「サミット」は、日本では7回目。会場は、岸田首相の地元「広島」。世界で唯一の被爆国である日本の立場を明確にするものでもあり、それ故に議論の焦点は、「法の支配に基づく国際秩序の堅持」に力点が置かれました。
世界の政治のリーダーに被爆の惨状を訴え、「核廃絶」と「非戦」への機運が高まることを期待されていたのです。そして、「サミット」では、経済、気候・エネルギー、食糧、開発、保健等の地球規模での課題への対応も議論されましたが、ロシアによるウクライナ侵略や核軍縮が直面する課題だっただけにウクライナのゼレンスキー大統領の「参加」による幕の閉じ方は、サミットが「成功」したかのように印象付けるものでした。
しかし、長年、核兵器の廃絶を訴えてこられたサーロー節子氏からも厳しく「失敗!」との指摘があるように、「G7広島・サミット」がまとめた核軍縮に関する「広島ビジョン」は、核抑止に留まり、核兵器廃絶への議論には至らなかったようです。
「戦争は最大の人権侵害」と言われますが、広島・長崎で被爆された方々の生きる権利の保障はもとより、「人類」の生きる権利が、歴史的にどう保障され、社会的にどう位置付けられてきたのか?を明らかにし、国として「人類」の生きる権利の視点からも具体的な施策をどのように実現するのか?が今回の「サミット」の「大きな課題」として問われたものであったと考えます。

「LGBT理解増進法」が成立し…

さて、国内の人権に関わる状況に目を向けますと、まず、6月に「LGBT理解増進法」が成立しました。この法の正式名称は、「性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律」ですが、議員立法として、超党派の議員連盟が2021年に法案がまとめられました。しかし、法案可決までには、最終段階においても性的指向などを理由とした「差別は許されない」との記述を禁止規定に読めるとの意見から「不当な差別はあってはならない」と変更され、「性自認」については、「ジェンダーアイデンティティ」との表現に置き換えられるなど、紆余曲折がありました。
この法の基本理念には、「全ての国民が、(中略)等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものである」とされているにも関わらず、性的マイノリティなど被差別当事者の尊厳を守る立場の法となっているか?また、理解増進法でありながら、啓発や相談体制の整備等は、努力義務に留まっているのでは?など審議過程の中での「差別」に対する言葉遊びだけでなく、課題は残されているように感じています。

「旧優生保護法」をめぐる判決に接し…

これも6月ですが、旧優生保護法のもとで不妊手術を強要されたとして、国に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、損害賠償請求権が20年で消滅する「除斥期間」を適用し、原告の控訴を棄却した判決が報じられました。この間、各地での地裁・高裁判決において、旧優生保護法の違憲性や被害の重大性等を指摘し、国の損害賠償責任を認める判決が相次ぎ、政府も優生政策の過ちを認め、裁判所も不妊手術が基本的人権の侵害にあたり違憲であることを認めてきました。にも拘らず20年の除斥期間を理由とした判決に接し、改めて、障害者権利条約の批准の際の「Nothing About us without us」(私たちのことを私たち抜きで決めないで)の理念の基本を噛み締めております。
「法の支配」に基づく「人権の保障」を最優先され、部落問題をはじめとする様々な人権課題を早期に解決にすること…それが今の我国の「政(まつりごと)」に求められる大きな課題ではないかと感じざるを得ません。

財団の「進化」を目指し!

「サミット」「LGBT理解増進法」「旧優生保護法」などの課題に触れながら、改めて当財団の果たすべき役割の大きさを実感しております。まず、第一の目的の「奨学事業」ですが、新たな応募もあり、奨学生3人となり順調に推移しています。また、支援や交流のための「奨学生の集い」も奨学生の声を反映させ開催するなど一層の充実を図ってまいります。
今の奨学生が、昨年導入させて頂きました「奨学金一部返還免除制度」の対象第1号となる可能性に期待を膨らませております。
そして、朝田委員長の名を冠とした恒例の「朝田善之助記念同和教育研修会」も第41回を数える今回は、野口道彦先生をお迎えし、「格差の是正と解放の戦略」と題してご講演いただきました。今日的な部落問題の現状と解決に向けた「誇りの戦略」などを提起して頂きました。まずは、研修会報告を早期に作成し、皆様のお手元にお届けし、人権のフロントランナーとしての活動を進めます。
また、朝田善之助記念館の所蔵する史資料を活かした「研究活動」は、当財団の生命です。昨年の朝田善之助委員長生誕120周年、財団設立40周年を契機に新たな「研究助成」事業として、当財団の趣旨を理解し、部落問題解決のために意欲的な研究を推進される方に対して助成する「朝田善之助賞」を創設致しました。朝田善之助初代理事長が目指された「人材の育成」について研究の分野にも貢献できるものです。
被爆体験を語る広島の語り部の締めくくりの言葉「まずは自分から平和のために動ける人間になってください。」に触れ、心に響きました。
部落問題の解決に向けて、自らの行動を起こすこと…当財団が様々な事業・活動の積極的な展開することこそが人権意識の醸成に寄与することと考えております。
結びに、当財団が目指す「真に豊かな社会」の実現するため組織的に連携を図り、「進化」を目指すことをお誓い申し上げますとともに引き続きご理解とご支援を賜りますことをお願い申し上げまして、ご挨拶といたします。

「朝田教育財団だより 第38号 2023年1月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

謹賀新年 ~2023年の新しい年を迎え~

卯年の年頭にあたり、謹んで新年のお慶びを申し上げます。
旧年中は、当財団の運営に多大なるご支援・ご協力を賜りまして、誠にありがとうございました。
心から感謝申し上げます。

【2022年を振り返り】

…「40周年記念事業」を通して…
昨年を振り返りますと当財団にとりまして大変奥深い年であったと存じます。
まず、財団設立40周年、朝田善之助委員長の生誕120年、朝田善之助記念館開館5年を記念して、7月3日に「記念の集い」を開催することができました。
当日は、関係者をはじめとする大変数多くの皆様にご参加頂きました。改めて感謝の意を表します。
誠にありがとうございました。
また、「周年事業」を記念して発刊しました「朝田善之助全記録(抄)デジタル版」は、「記念の集い」にご参加して頂いた皆様へ記念品としてお持ち帰り頂きましたが、以来、好評を得まして関係機関からのお問合せが増えております。
既に一部は発送させて頂いておりますが、部落解放運動の歴史や伝統を学ぼうとされる方々の関心の高さに触れることが出来、嬉しい限りです。

…京都から2人目の中央執行委員長…
2017年度の第35回同和教育研修会においてご講演を頂き、朝田善之助記念館の開館にあたりご来賓としてご挨拶を頂きました西島藤彦さんが2022年6月に部落解放同盟の中央執行委員長に選出されました。
朝田善之助委員長に次ぐ京都から2人目の委員長誕生となりました。
昨年の「記念の集い」では、中央執行委員長としてご挨拶を頂き、朝田善之助委員長の意志を継いで「部落解放運動の歴史と伝統を引き継ぐ決意」を力強く述べておられました。
今後のご活躍を期待させて頂くとともに、当財団といたしましても連携を深めながら、部落問題の解決に寄与する活動に結び付ける契機となると考えています。

…水平社創立100年…
併せて昨年は、全国水平社創立100年の年であったこともあり、部落問題に対する社会的な関心も高まりました。
映画「破戒」の公開上映や部落問題関連図書の出版などにより、今日の部落問題の有り様を示す動きが見られました。
こうした動きが一過性に終わることなく、本年も引き続き継続されることを期待しています。
一方、部落問題に関しましては、「全国部落調査」地名公開裁判が継続しています。
昨年の東京地裁判決では、一定の「成果」をも得ることができましたが、控訴審は、さらに部落地名をインターネット上で公開することの差別性や「差別されない権利」等をめぐって議論されることと存じます。
このような議論や差別に反対する取り組みが、今後の部落問題の完全な解決に向けた社会制度のあり方を創造していく大きな力になっていくと考えます。

…2人の奨学生を迎えて…
今年度は、新たに2人の奨学生を迎え、支援事業が始まりました。
2019年に理事長に就任させて頂いた私にとりましても初めて迎えた奨学生であり、奨学金の「一部返還免除制度」の対象となる初代の奨学生でございます。
当財団の設立目的であります「部落問題解決に寄与する意思を有する青少年等への教育の振興」を推進することに弾みがつくように感じます。
奨学生の皆さんには、担当理事を中心に「奨学生支援チーム」を結成し、学習生活等の支援を行っています。
その一つに、部落問題の認識を深めるために定期的に開催する「奨学生の集い」がございます。
これは、計画的な部落問題学習や奨学生同士、更には財団関係者との交流も行うものですが、私自身も奨学生との交流の貴重な機会だけにこれまでから毎回楽しみにしております。
歴代の奨学生には、既に社会で活躍する先輩も多く、今後、「奨学生支援チーム」の協力を頂きながら、奨学生2人の成長のために財団として限りない支援を続ける所存です。

【2023年も本質を見据えて】

…正解を導き出すために…
「空間は無限大、時間は不可逆」と言われますが、まさに限りない人のつながりを大切にしながら、前にしか進まない時間を部落問題の解決に向けた時間軸として多くの皆さんと共有できる1年にしたいのです。
「哲学」は、“あたりまえ”の学問と言われておりますが、「哲学」を英語で「philosophy(フィロソフィー)」と言い、その語源はギリシア語の「フィリア(愛する)」と「ソフィア(知恵)」の合成語です。
“あたりまえ”を疑ったり壊したりすることが、学問の原動力の源ですが、今の時代は、まさに「哲学」で言われる「全てを疑え」という言葉を以てして考えるべき状況に直面しているかも知れないのです。
朝田委員長は、「社会科学を電気のように駆使」して部落問題を捉えるように言われました。
部落問題が社会矛盾の最たる現れである以上、現在社会で直面している全ての現象、例えば、新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシアのウクライナ侵攻とそれを後押しする様々な勢力の存在、「ネット社会」に取り込まれた人権侵害等々…本当に「混沌」とした状況の中で、瞬時に何を為すべきかを考える力として、「全てを疑い」そして瞬時に「正解を導き出す」思考の力が私たちには求められています。

…記念館の果たす役割…
当財団では、朝田善之助記念館に足を運んでいただき、朝田善之助委員長が残された貴重な史資料に直接触れていただきながら、部落問題解決に向けた研究等のすそ野が大きく広がることを期待しています。
デジタル社会の進展により、国民生活の利便性向上や業務の効率化、低コストによるきめ細かいサービスなど多様な幸せが実現しますが、一方で「直接史資料に触れる」というアナログの手法もまだまだ捨てたものではありません。
というより、部落問題に限っていえば今こそ部落解放運動が蓄積してきた史資料を発掘することで、部落解放運動の歴史と伝統に基づいた部落問題解決の方途が見えてくるものです。

…変化に転じる年…
年初にあたり、2023年を前向きな姿勢で分析をさせて頂きます。
ウィズコロナ経済の定着により景気は好転、ロシアのウクライナ侵攻の影響で急騰した物価も収まりつつあり、異常な利上げもピークアウトとなるなど課題の一つ一つが変化に転じてくる年となります。
余談ですが、スポーツ界でも「国民体育大会」の名称で開催されるのは今年が最後となり、来年からは、「国民スポーツ大会」として開催されます。
なお、私事で大変恐縮ですが、行政の仕事を引退後に勤務していました第2のステージも昨年に退職し、年齢(数え年)としては、「古来稀に見る高齢者」と言われる「古稀」を迎えました。
しかし、様々な地域活性化事業や社会的なプロジェクトなどに関わらせて頂き、当財団の理事長は言うまでもなく、自らに課せられた責任の重大さを実感しています。
2023年を迎え、また新たな一歩を歩み出しました。
ここに改めて、財団設立の根拠とも言える朝田善之助委員長が部落差別の解決についての語録…「差別されてきた人々が社会の発展に照応して労働力の質を高め、損傷なく自らの希望する仕事に就き、健康で文化的な社会生活を営むに足る賃金と所得を保障される状態にほかならない。」を噛み締めながら、「卯年」も財団の使命を果たしてまいりたいと存じます。
本年が皆様にとりまして、穏やかで充実した年となりますようご祈念申し上げますとともに当財団にとって飛躍的な年となりますよう、今後も変わらぬご支援・ご協力を賜りますことお願い申し上げ、新年のご挨拶といたします。
本年もよろしくお願い申し上げます。

「朝田教育財団だより 第37号 2022年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

 残暑お見舞い申し上げます

2022年の京都の夏は、観測史上最も早い「梅雨明け」により幕を開けました。厳しい猛暑が今なお続きますが、お見舞い申し上げます。
そして、平素より当財団の運営に深いご理解・ご支援を賜っておりますことに心より感謝申し上げます。
誠にありがとうございます。

…「第40回同和教育研修会」開催…
朝田善之助初代理事長(以下「委員長」という。)が、1902年7月4日(諸説あり)にこの世に生を受けられ、ちょうど120年目となる7月3日に予てより準備を進めて参りました「朝田善之助生誕120年・朝田教育財団設立40周年記念の集い」(以下「記念の集い」という。)を開催いたしました。
この「記念の集い」に先立ち、「朝田善之助記念 第40回同和教育研修会」を「朝田善之助の生涯」をテーマに実施いたしました。
講師には、当財団の監事で弁護士の国府泰道さんと同じく財団の理事・事務局長で京都文教大学名誉教授の竹口等さんのお二人から朝田委員長の「人となり」を直に接しられた際の話題や様々な文献や証言、当時の写真等をもとに臨場感ある語り口で披露して頂きました。お二人の講師のお話により、委員長のお人柄はもちろんですが、部落解放運動の中心的存在として活躍された折々の証言や運動史では語られていない「裏面史」などを垣間見ることが出来ました。約100人の参加者は、懐かしさや新鮮さなど様々な受け止め方がある中でも部落解放運動の積み重ねの大切さを温もりの感じる雰囲気の中で味わって頂きました。貴重なお話をありがとうございました。

…「記念の集い」の盛り上がり…
「記念の集い」は、「コロナ禍」の影響があるだけに万全の感染症拡大防止対策を講じ、参加者の皆様も限定させて頂いて開催させて頂きました。
ご来賓としてご臨席頂きました京都市長門川大作様、去る6月9日に部落解放同盟中央執行委員長に就任された西島藤彦様のお二人からは、生涯を部落差別の解決に捧げ、闘い続けられた委員長の功績を讃える祝辞がありました。梶村健二評議員の乾杯の発声の後には、松井珍男子顧問・佐々満郎先生・崎野隆先生等の当財団への永年のご貢献に対しての功労者表彰式も行いました。
「記念の集い」の閉会は、朝田華美副理事長から幼い頃の委員長との触れ合いなど想い出を味わい深く語られ、締めくくって頂きました。
「記念の集い」は、日頃から財団をお支え頂いています皆様方、そして、朝田家に関係する企業のお力添えにより成功裏に開催できました。改めまして、感謝申し上げます。

…「朝田善之助全記録(抄)デジタル版」発行…
さて、財団設立40周年の記念事業としてお約束をしていました委員長の「遺稿」の「デジタル版」が完成致しました。「デジタル版」の作成に合わせ、財団発行の「朝田善之助全記録」全55巻を今回の記念事業を契機に「再刊」に近い形でデジタル化することが出来ました。タイトルも「朝田善之助全記録(抄)デジタル版」。主な内容は、遺稿「部落解放運動の伝統~戦後の理論的発展~」をはじめ、朝田善之助の全生涯について「年譜と写真」で紹介するものや部落解放運動の中で若い人を育成する「朝田学校」に関連して、学習記録及び講義・座談(抄)等を収録いたしました。また、「朝田学校」で行われた「学習記録」も収録されています。この「デジタル版」の制作にあたっては、多くの方々にご協力を頂きましたが、中でも西播磨部落問題学習会の藤木秀之さんには特段のご尽力を頂きました。その拘(こだわ)りのある技術力のお蔭をもちまして、財団としてオリジナリティーのあるものに仕上げることが出来ました。誠にありがとうございました。是非多くの皆様にご活用頂きたいと存じます。

…今日の部落問題…
今日、部落差別解消推進法が制定され5年が経過しましたが、近年の部落問題をめぐる状況は、インターネットやSNS等での拡散など差別行為が後を絶ちません。昨年9月の東京地裁の判決は、被差別部落地名リストのネット公開や書籍化は「差別を助長する」と一定の歯止めをかけることになりましたが、双方が控訴し、「何が差別か」や「差別されない権利」などについてさらに議論が続けられることになっています。
こうした中「部落解放論の最前線」に続き、水平社創立100周年という年を踏まえて「続・部落解放論の最前線」や「講座・近現代日本の部落問題」全3巻が続けて発刊されました。ここでは、現代を代表する様々な立場の人が歴史・文化・法制度等の様々な内容で部落問題を論じられています。また、映像メディアにおいても「私のはなし・部落のはなし」や「破戒」等直接部落問題が取り上げられ、多くの方々に関心を持たれています。このことは、私達にとっては歓迎すべき事態でありますが、決して論稿の中で部落問題を解決する明確な方向性が見えてきているとは言えない状況ではないかと感じています。むしろ今日の部落問題の置かれている「混沌」とした状況の現れではないかと危惧するところであります。

…部落問題の本質的な解決のために…
朝田善之助委員長が、かつて東上高志氏の「ルポ東北の部落」を「差別だ」として糾弾された際、「主観的に自分は、部落問題の解決に寄与すると考えてるかもしれん。けれども、実際、自分の置かれている立場が、部落問題を云々している生活からいって、やはり部落問題を面白おかしく、もっと悪くいえば、道化的に描くことによって、客観的には差別を助長しても商売になった方がええ、読者が喜ぶように読み易いようにしたらええということになってるわけや」と指摘されています。
今日の状況に照らせば、部落問題について多くが語られていますが、まさに委員長が述べられた、現実に部落差別が存在する中で社会意識のままに記されることは「概ね、人が物を言う時に、社会には部落民が悲惨な生活をしている、差別に悩まされているという生活があり、それが意識としては社会意識として反映しているなかで、社会科学がなくて、一般で話し合われることが部落問題に寄与するような話になることが絶対あるわけない。何か部落問題について、意識的に解決に役立つように言うてるつもりでも、一生懸命に差別を助長しているということもたくさんあるわけです。」と述べられていることは私たち自身も考えなければならないことだと考えます。部落の生活や社会状況は大きく変化していますが、部落問題の本質的な解決を見ているわけではありません。
改めて財団の意義と役割を自覚して今後も取り組みを進めていかなければならないと考えています。

…「デジタル版」を活かして…
「温故知新」という言葉がありますが、「デジタル版」は、今日議論されている「部落問題とは」、或いは「部落民とは」等、部落問題に関する「定義」の問題等についても明確に示された内容が収録されています。また、歴史的・社会的な変化の中でこれらの問題がどう考えられ、部落解放運動の中でどう実践されてきたのかが明らかにされ、部落問題解決の方向性についても多くの示唆を与えてくれるものとなっています。「デジタル版」を活用していただき、実践活動に活かして頂ければ幸いです。

…「Withコロナ」でご活躍を!…
「コロナ禍」が始まり3度目の夏を迎えましたが、また「第7ステージ」と言われる状況を迎えています。一方、「Withコロナ」が日常のものとなり、今後の生活や様々な活動において感染拡大防止対策を意識した行動が不可欠となりました。そして、京都においては、修学旅行や観光客の入洛が「コロナ禍」前を思い起こす状況となり、京都駅周辺の賑わいも戻って参りました。
財団におきましても、評議員会を新しい顔ぶれでは初めて開催することが出来ましたし、今後におきましても、奨学生の集い・学習会も開催させて頂きます。
皆さん方におかれましても、徐々に社会参加の幅を広げられていることと存じますが、感染拡大防止には十分ご留意頂きながら、ご活躍頂ければ幸いでございます。

… 結びに…
当財団の基本的事業である奨学生の募集について、本年度は新たに2名の採用をさせて頂きました。皆さん方のご支援に感謝申し上げます。部落問題解決に向けた有為な人材を育成するという当財団の至上目標の達成に向けて、奨学生の学生生活の充実と活躍を期待する次第です。財団といたしましては、差別のない「真に豊かな社会」の実現に向けた事業の推進に更なる努力を重ねて参る所存でございますので、今後とも会員の皆様をはじめ、多くの方々のご支援をよろしくお願いします。

「朝田教育財団だより 第36号 2022年1月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

謹賀新年 ― 「周年事業」を契機として ―

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
皆様には、清々しく新春をお迎えのことと心からお慶び申し上げます。

新型コロナウイルス感染症に翻弄され、約2年が経過いたしますが、その中にありましても関係各位の皆様には、当財団の様々な事業に対し、ご理解、ご支援を賜って参りましたことに厚く御礼申し上げます。
私たちの生活を大きく揺るがした「コロナ禍」も昨年11月には、漸く「第5波」が収まりを見せ、我が国では、一定の落ち着きの方向性が報道されていました。
京都におきましても、観光客や修学旅行生の姿が見られ、紅葉の美しさとともに観光都市としての息を吹き返してきたように感じられました。

【新しい生活様式へ】
しかし、世界的には感染の波は繰り返されており、新たな変異株「オミクロン株」も広がりを見せるなど、未だ感染拡大の脅威が収まっている状況にはありません。昨年の「第5波」の緊急事態宣言が解除された際、国では「分科会」の提言を受けて、今後の緊急事態宣言の発令や対策について「新指標」を策定しました。
それは、従来の「感染者数」ではなく、「医療の逼迫状況」を重視したものです。しかも発令は、「ワクチン接種状況」「医療提供体制」「治療薬の開発状況」等を勘案して各都道府県が判断して行い、それを国が適宜「支援」するというものです。こうした対応の中で「日常生活や経済活動を取り戻す」ことが求められています。
まさに「Withコロナ」の新しい生活様式になりつつあるのではないでしょうか。
差別の本質の解決に向けてこの「コロナ禍」は、私たちのライフスタイルや働き方などの変革を余儀なくされ、社会全体に大きな影響を与えました。そして、「コロナ差別」という用語を生み出すほどに社会的に弱い立場に置かれた人々の生活を直撃し、様々な場面で私たちに「新しい人権課題」を突き付けられていると考えます。
一方で、SNSやインターネット上では差別的な書き込みが見られるなど厳しい状況があります。兵庫県丹波篠山市では、被差別部落の様子が動画でインターネット上に公開されるという事件に関して、「削除」命令が出されました。昨年9月には、「違法性」を根拠にインターネット上における被差別部落の地名公表等に対して、「公開中止・削除」命令とアウティングされた人々への「賠償」判決が東京地方裁判所で出されました。これらは、部落問題解決に向けて大きな一歩となりますが、東京地方裁判所の判決には原告、被告の双方が「控訴」をしており、今後も議論は続けられることになります。
このような差別を助長する行為に対しての「厳しい判断」は、一つの流れとして、今後定着する可能性はあります。しかし、部落の地名を公開することが単に「プライバシーの侵害」に矮小化されてはなりません。部落の人々の生活に大きな影響を及ぼす原因となっている「差別の本質」の解決に向けた活動が広がりを見せることに期待しながらも私たちがその一翼を担う必要があることに責務を感じる次第でございます。

【昨年の事業を振り返り】
さて、財団の活動について申し上げますと、昨年は、二度の「奨学生の集い」と秋には第39回同和教育研修会を開催することができました。本年度は、奨学生が一人という状況でございますが、「奨学生の集い」には新しく就任して頂いた評議員の方々も参加して頂き、奨学生と共に意見交換し、交流を深めることができました。京都の路面電車に関わる歴史の話題の際には、私も京都市の初代交通政策監時代や水道事業等に関わった経験のお話しをさせて頂きました。本年も「奨学生の集い」を計画していますので、より多くの関係の方々のご出席を頂き、奨学生を励まして頂ければ幸いです。
11月19日に開催いたしました「朝田善之助記念第39回同和教育研修会」は、会場のハートピア京都の大会議室が多くの参加者でいっぱいとなり、成功裏に終えることができました。当日は、「各地の生活実態調査から部落差別を考える」をテーマに、大阪から内田龍史様、京都から森本弘義様、兵庫から吉田善太郎様の3人の方々からそれぞれの地域における部落の生活実態について、国勢調査結果及び実態調査結果等に基づくご報告がありました。何れも対象地域の現状を丁寧に分析され、社会的弱者の層が一定数存在することを示す報告であり、改めて社会全体が厳しい状況になっている現実を明らかにして頂きました。また、インターネット上の差別についてカミングアウトとアウティングの関係等、今日的な課題についても意見交換のなかで討議され会場が盛り上がりました。
早期に報告書を作成し皆様方のお手元にお届けし、研修会の内容を知って頂くと共に、財団として、部落問題の早期解決に向けた取り組みを皆様と共有したいと考えています。

【記念すべき年を迎え】
これまでお伝えして参りましたとおり2022年は、朝田教育財団にとりまして、「朝田善之助初代理事長生誕120年、全国水平社創立100年、財団設立40年周年、朝田善之助記念館建設5年」という記念すべき重要な年であります。
まず、水平社創立100年でございます。我が国の人権保障の取り組みにとって一つの節目の年ともなります。朝田善之助初代理事長(元部落解放同盟中央委員長)がスペイン風邪を押してその創立大会に参加された話を思い起こすとき、「コロナ禍」によって全国人権同和教育研究大会を始め、部落問題解決や人権保障に取り組む皆様の様々なご活動が「中止」に追い込まれる今日の状況と重ね合わせ、多くの皆様のご労苦に胸が熱くなります。
全国水平社の創立とその後の部落解放運動の発展が、今日の我が国の人権の保障を求める社会運動を牽引し、大きく発展したことを思えば、その歴史と伝統を受け継ぐ立場にあるものとして責任を痛感する次第です。
記念すべき年の年頭に当たり、気が引き締まる思いをしています。
そして、この間、記念すべき「周年事業」の年を迎えるにあたって準備を進めて参りました。
まず、財団の中心事業であります「奨学金貸与」についてでございます。既にご承知のとおり、これまでの返還免除の規定に加え、「一部返還免除」制度を導入しました。例えば、国家資格等の取得や大学等で所定の単位を履修されるなどにより、一部返還免除制度を導入致しました。現在、奨学生は一人という状況ですが、昨年12月には、私自身が竹口事務局長とともに京都市立高等学校校長会の会合に出向き、財団の奨学制度の趣旨を説明し、新たな奨学生の推薦について呼びかける活動も展開しております。
皆様方にもご協力を賜り、一人でも多くの奨学生を採用できればと考えていますので、よろしくお願いします。
また、朝田善之助初代理事長生誕120年に関連して、「朝田善之助全記録」(全55巻)に「遺稿」として連載されていました「部落解放運動の歴史と伝統~戦後の理論的発展~」を単行本として刊行します。最近の部落問題解決を巡る状況の中で『部落解放論の最前線~多角的な視点からの展開~』(解放出版社 2018年12月)が出版され、学識者をはじめ多様な立場の人々が部落問題論やその有り様について意見を表明されています。昨年末には、その『続編』も出版され、より一層部落問題に関する論点等が示され、さらなる展開を見せています。その中にあって、初代理事長が目指された部落解放運動の歴史と伝統に基づく部落問題の完全な解決に向けた方向性を「遺稿」として発刊することは、重要な意義があるのではないかと考えます。ご期待下さい。

【結びに】
朝田善之助記念館付属図書室の蔵書資料等を公開する準備も着々と進んでいます。訪問をして頂く皆様方に閲覧して頂きやすい環境が整うのも間もなくでございます。楽しみにしていて下さい。
更には、本年7月3日(日)には、全国水平社創立100周年をテーマとして、「朝田善之助記念第40回同和教育研修会」を開催し、同時に「周年事業」の記念式も予定しています。
このように「周年事業」を契機として、部落問題解決に資する社会に有為な人材の育成と様々な事業活動を展開し、朝田教育財団は更なる発展を目指して、一歩ずつ歩みを進めて参ります。
年頭に当たりまして、その決意を申し上げますとともに本年が、皆様にとって、穏やかで素晴らしい年となりますことをご祈念申し上げ、引き続き財団に対する温かいご支援・ご協力を賜りますようお願い致しまして、新年のご挨拶とさせて頂きます。

本年もよろしくお願い申し上げます。

「朝田教育財団だより 第35号 2021年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

コロナ禍でも人権侵害を「当たり前」にしないために

…残暑お見舞い申し上げます…
2021年の京都の夏は、「地球温暖化」や「コロナ禍」など様々な要因で一段と厳しさを増しております。新型コロナウイルス感染症の拡大が始まり、既に1年8ヶ月目を迎えました。この間、最前線で日夜休む間もなくご奮闘を重ねておられます医療従事者をはじめとする関係者の皆様方に対しまして、敬意と感謝を申し上げる次第でございます。

…新体制で第一歩…
こうした時期におきましても、朝田教育財団は、2021年度の歩みを進めております。役員改選期の年度でもありますので、理事会・評議員会も感染対策をとりながら開催させて頂き、新たな第一歩を踏み出すことが出来ました。
これもひとえに会員の皆様を始め、財団に対しご支援を頂いております多くの方々のご理解・ご協力の賜物であると存じ、心より御礼を申し上げます。誠にありがとうございます。
今年度は、当財団の運営にご尽力頂きました4人の評議員の皆様がご退任されることとなりました。皆様方には、永年にわたり大所高所からご指導を賜るなど大変なお力添えを頂きましたことに心から感謝申し上げます。
そして、新しく7人の評議員をお迎えし、新体制が整いました。新たな評議員の方々は、教育職・行政職・企業経営等の立場で豊富な経験を積まれた方を始め、財団奨学生の先輩として社会でご活躍されておられる若い世代の方など女性3人を含む皆様でございます。
皆様には、新たな視点から当財団の事業に対し、新鮮な風を吹き込んで頂けることと期待いたしております。

…「コロナ禍」での財団の使命…
さて、新型コロナウイルス感染症の拡大は、春の桜の季節に「第4波」を迎え、3回目となる「緊急事態宣言」が多くの都道府県で発出され、6月下旬まで続くこととなりました。
7月には12日から東京都に「緊急事態宣言」が発令され、埼玉、千葉、神奈川、大阪に発令されていた「まん延防止等重点措置」、沖縄県の「緊急事態宣言」も延長されました。
その後、感染者の急増・拡大に伴い、8月2日からこれまでの沖縄、東京に加えて埼玉、千葉、神奈川、大阪にも、「緊急事態宣言」が8月31日まで発令されました。また、「まん延防止等重点措置」が、京都、北海道、石川、兵庫、福岡に8月31日まで発令されました。
その経過におきましては、特別措置法の改正案を成立させ、新型コロナウイルス対策を「期間、区域、業態を絞った措置を機動的に実施できる仕組み」として、違反した場合に過料を科す「まん延防止等重点措置」が制度化されました。そして、感染者数の下げ止まりや重症患者・病床使用率など厳しい状況の中で「まん延防止等重点措置」の適用から「緊急事態宣言」の発出へと変遷する流れは、決して分かり易いものではありませんでした。
ワクチンの接種が進む中でも新型コロナウイルスは、「アルファ株」や「デルタ株」(イギリスやインド等の国名を使わなくなりました。)と言われる変異株の感染拡大に予断を許さない状況が続きます。私達は、引き続き咳エチケットや手洗い、マスク着用などとともに「三密(密集、密接、密閉)の回避」に努めなければなりません。
「コロナ禍」は、京都のまちから外国人を含めた観光客や修学旅行生の姿を消してしまいました。これまで、好調であった飲食業界では、徹底した感染症拡大防止策を講じながらも、「休業」や「営業時間短縮」の要請を受け、危機的な状況に陥っています。他にも京名菓やお漬物・お茶などのお土産業界をはじめ交通機関など同様の窮地に立たされています。
「人流の抑制」などの影響による経済の停滞は深刻です。また、「働き方改革」や「新しい生活様式」という変化への対応も求められ、私達は、大きな試練を突き付けられています。
一方、家電や流通業界をはじめ、ネットワーク関連業界は「空前の利益」を上げていることが報じられています。京都のおきましても「巣ごもり」需要で「あつ森」に代表されるゲームソフトの人気により、過去最高益の決算という企業もあり、「コロナ禍」の中で「資本の集中と集積」という経済上の変化が進んでいることが伺えます。
こうした中で、やはり社会的に弱い立場の人々への影響が大きいということを考えさせられます。社会が経済的に厳しくなればなるほど非正規雇用の労働者や女性、障害のある方々が不利な状況におかれます。
例えば、「ひとり親家庭」とりわけ母子家庭では、非正規雇用に従事する方が5割と言われ、経済的基盤が弱く厳しい環境にある上に「コロナ禍」の影響を受け、就労の機会を奪われるなど不安定な生活を強いられていることが報道でも明らかになっています。決して「個人」に責任があるのではなく、「社会」に起因するものがあると考えます。今、直面している「新しい生活様式」への対応がこうした人々の雇用の機会を保障できるシステムに変化しない限り、「コロナ禍」を克服したとは言えないと思います。
一人ひとりが幸せに生きることへの大きな壁が「社会」の側にあると言っても過言ではございません。「コロナ禍」の影響の中で「人権が侵害されている」という状況が目の前に現れています。このようなことを「当たり前」にしないこと…ここに朝田教育財団の担うべき社会的使命があるのではないかと存じます。
今、何をすべきか? その方向性などを考えます時、皆様とともに改めて朝田善之助初代理事長の闘いの軌跡を思い起こし、その根底に流れる理念を脈々と受け継いでこられた先輩方の言葉に触れたいと存じます。
「朝田委員長は、自ら部落解放運動に取組む中で、運動を巡る状況が厳しければ厳しいときほど理論的な発展を提起されました。」「自らが水平社創立に関わりながらも『水平社解消意見書』を出し、水平社運動の停滞を打破されています。」「『部落委員会活動』を提起し、その後の運動の発展を条件付けておられます。」「戦後いち早く部落解放運動の再建に取り組み、1957年の第12回全国大会では、『日常生起する問題で、部落にとって、部落民にとって不利益な問題は一切差別である』という『差別の命題』を提起され、併せて『封建遺制と部落問題-位階制の意義と役割について』を執筆し、当時の部落差別のとらえ方を巡る混乱を理論的に整理されています。」等々、一貫した信念の中に伝統を継承されながら発展に結びつける大切さを学ぶことができます。
そして、「部落には、不景気の影響は一番に、好景気の影響は最後にくる。」とこれも朝田委員長の言葉です。景気が悪くなれば一番に失業を迫られ、逆に良くなると最後に雇われる様な社会的存在ということです。
「コロナ禍」にあって、非正規雇用労働者、女性や障害のある方々が置かれている状況と同様の現象となって現れております。
また、かつて後藤晨次先生(京都文教大学副学長)は、著書『民主主義と同和問題』の中で「封建的なものを一切なくし、民主社会を達成することがすべての人の利益になるという立場から、そして、民主主義のルールでいえば一番圧迫され差別されている人々の問題から取り組むことがルールになっており、だから部落問題の解決こそ第一に取り組まれねばならない課題とされているのであり、そこに部落問題が国民的課題とされている意味があることをお互いに確認したいと思う。」と述べられていました。
本当の意味で「コロナ禍」を克服するためには、後藤先生の言われる考え方に立ち、感染源対策と感染拡大防止対策を前提として社会的に弱い立場に置かれている人々への支援を行うという基本的な立場がここにあるのではないでしょうか。
朝田教育財団としても、共通した大きな「壁」を克服するためにも、厳しい社会状況であるからこそ様々な支援活動や事業の推進に邁進し、差別のない民主主義の確立に向けて努力していかなければならないと考えています。

…着々と周年事業を!…
さて、当財団の奨学生ですが、今年の3月末に2人が大学を卒業し社会に巣立っていきました。財団だよりの前号の「奨学生の近況」に掲載されていますが、教職の道を選択した方もおられます。部落問題の解決に有為な人材として活躍してくれることを期待しています。また、それに続く人が一人でも多く現れることを願っています。
一方、現在の奨学生は、1人となっています。奨学生の募集につきましては、これまでから京都府内の大学等に積極的に資料提供等を行っておりますが、私自身も京都市教育委員会指導部の進路指導担当者と意見交換を行い、朝田教育財団の奨学生募集の趣旨を伝えながら、掘り起こしに努めているところであります。
また、今後の奨学生の皆様に厳しい社会を逞しく乗りこえて頂くためにも、部落問題解決に資する有為な人材の育成を進めるためにも「周年事業」として、奨学金の「一部返還免除制度」の導入を進めてきました。皆様にもご協力をお願い申し上げます。
今年度は、財団設立40周年であります。翌2022年度は、朝田善之助初代理事長の「生誕120年」という記念すべき年であり、全国水平社創立100周年とともに「朝田善之助記念館」設立5周年を迎える年でございます。現在、その全てを記念して執り行う「周年事業」の準備も担当理事をはじめ関係各位のご協力の下、着々と進められています。「朝田善之助記念館」の史資料の整理も「公開」に向けた準備が整いつつあり、こうした史資料が活用された研究活動が展開されることも楽しみです。
「コロナ禍」の影響で、多少の日程の変化はございますが、ワクチン接種も進む中、「朝田善之助記念同和教育研修会」や「奨学生の集い」等々を着実に実施して参ります。
結びに、新たにご就任頂きました評議員の皆様とともに差別のない「真に豊かな社会」の実現に向けた事業推進に邁進して参りますので、会員の皆様をはじめより多くの方々のご支援をよろしくお願い申し上げます。

「朝田教育財団だより 第34号 2021年1月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

謹 賀 新 年

新しい年を迎え、謹んでご挨拶申し上げます。

昨年は、年初から「コロナ禍」の波が押し寄せ、様々な新しい経験を重ねる厳しい一年となりました。年の瀬には、「第3波」とも言われる感染拡大状況になり、その影響は今もなお継続していることに心を痛めています。

当財団では、事業の目的を達成するための行事が開催できない日々を続けながらも事務局員の交代勤務やオンライン活用等により、会議の進捗や財団奨学生の支援等を行うことが出来ました。事務局の皆さんを初め関係者の方々に心から感謝申し上げます。

こうした中にあって、昨年11月には、延期されていました「朝田善之助記念第38回同和教育研修会」を開催することができました。もちろん参加者の皆様には感染拡大にご留意いただきながら、主催者としても新型コロナウイルス感染症拡大防止に万全の対策を講じて研修会の開催に挑みました。そのため当日は、会場をハートピア京都とし、席と席との間隔も大きく取りつつ、できるだけ多くの人に参加いただけるよう配慮させていただきました。おかげさまで大きな会場も満席の状況になり、皆様の関心の高さと熱い想いに感激いたしました。誠にありがとうございました。

講師には、当初から予定していました当財団の評議員でもあり京都府会議員、そして部落解放同盟京都府連合会書記長であります平井斉己先生に「インターネットによる今日的な人権侵害」と題してご講演いただきました。

平井先生のお話を聞き、日頃何気なく使っているSNSが、自らの意思を超えて拡散していくというインターネット上における差別の恐ろしさを知るとともに時宜を得たテーマだっただけに参加者の皆様の熱気も伝わって参りました。と同時に、「確信犯」的に差別を拡散させる存在に対し、「怒り」「驚き」とともに「悲しみ」の気持ちも覚え、こうした現状に手をこまねいているのではなく、先生のおっしゃられた「四つの実践」、すなわち「通報する」「防止策をたてる」「情報発信する」「教育する」によって対抗する必要性を強く感じました。特に最後の「教育する」部分では、財団の活動によって大きく寄与できるものであり、大きな励ましを頂戴したとの認識に立ち、改めてその責任の重さを痛感しています。

「コロナ禍」にあって、インタ-ネットを介した情報が人々の「対立」「分裂」をますます加速させていることに危惧せざるを得ませんが、平井先生からは、インターネット上でアイデンティティを暴露されることによって発する人権侵害は、人々の間に安易に拡散し、極めて重大な問題を引き起こすという図式があり見逃すわけにはいかないこと、そして、そうした「事実」に直面してもそれを否定する「現実」の構築が問題を解決していく上で重要であることを教えていただきました。ありがとうございました。

さて、「奨学生の集い」ですが、昨年9月は「コロナ禍」のため学習と交流を行うことができませんでした。しかし、12月12日には、後藤晨次先生の「部落問題の実践的理解~朝田善之助委員長に学ぶ部落問題~」をテキストとして、奨学生が自ら選んだ箇所を読み「部落問題について考えたこと」をレポートするというテーマを設定し、そのレポートを奨学生担当理事の笹原義弘さんにコメントをしていただき、お互いに意見交換をするという形で開催することが出来ました。奨学生の皆さんには2時間に及ぶ活発な意見交換を聞き、財団の将来に明るい展望を抱くことができました。

この間、世界に目を向けますと…

アメリカ大統領選挙2020では、最終的に民主党のジョー・バイデン氏が次期大統領に選出されましたが、「勝利」を確実にした集会で民主党の副大統領候補になったカマラ・ハリス氏は、公民権運動の指導者で2020年7月に亡くなったジョン・ルイス下院議員の「民主主義は状態ではなく、行動である。」という言葉を引用しながら、民主主義を守ることに努力を惜しんではならないと訴えました。

そして、ハリス氏は「私は、初めての女性副大統領になるかも知れませんが、決して最後ではありません。」と発言し、民主主義の一定の勝利を讃えつつ、一方でメッセージを聞いた未来の子どもたちに民主主義の無限の可能性をも訴えました。今回のアメリカ大統領選挙は、「民主主義」の価値が大きく問われる選挙にもなりました。

また、テニスの全米オープンで優勝した大坂なおみさんは、「ブラック・ライブズ・マター」運動に積極的に関与し、黒人に対する人種差別を解決するため、民主主義を守るために行動を起こすよう訴えました。

大坂なおみさんはそのメッセージの中で、アメリカにおける黒人に対する人種差別に抗議し、「選手である前に、一人の黒人女性だ。」という自らの立場を鮮明にし、「人種差別」に反対するだけではなく「反人種主義」として、大会を通じて意思表示をし、すべての人に自ら行動を起こす必要を強く訴えました。

こうした訴えと行動は、当財団の目的である「部落問題の解決」にも関連するものであり、まさに日本の民主主義の水準を高めていくためにも、私たち自身が努力を惜しむことなく、主体的に行動を起こすことが求められていると再認識いたしました。

さて、新年を迎え、様々なことが頭をよぎりますが、本来の財団事業の進捗状況について述べてさせていただきます。

本年は、1981年に創設されました当財団が創立40周年を迎えることになります。創設者の朝田善之助初代理事長、朝田善三初代事務局長をはじめ、今日の財団を築き上げてきていただきました歴代の役員の皆様方の献身的なご努力に対しまして、心から敬意を表します。一口に40年といっても、部落問題の完全な解決を巡る動きには大変なものがあったことと察します。そうした情勢の変化や困難を乗り越え、今日において京都府内に画然とその存在を示し得ていることに、財団理事長として感情が高ぶる気持ちとその責務の重大さを感じています。

そして、翌2022年には全国水平社創立100年を迎えます。加えて、創設者の朝田善之助氏の生誕120年の年であります。さらに、朝田善之助記念館の設立5周年という年でもあります。財団では、これらの記念すべき年に向けて「周年事業」と称し、様々な事業を進めてまいります。記念講演会の開催はもとより啓発活動としての講座開催、さらには記念館付属図書室の6万点に及ぶ史・資料や図書等の閲覧、検索等が可能になるような記念館整備事業、等々を進めてまいります。また、奨学生事業については、今回のコロナ禍も考慮し、奨学資金の一部返還免除や給付制の導入等更なる充実を目指し、検討してまいります。皆様方からのご意見も反映させながら、より良い「周年事業」にしたいと考えています。是非ともご意見をお寄せください。よろしくお願いします。

新しい年の始まりにあたり、コロナ禍を乗り越え、東京オリンピック・パラリンピックが人々の安全・安心が確保された中で盛大に開催され、成功することを期待しています。

そして何よりも財団に対する益々のご支援ご協力をお願いしますとともに、今年こそは皆さんにとって素晴らしい年になりますようご祈念いたしまして、新年のご挨拶とさせて
いただきます。

「朝田教育財団だより 第33号 2020年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

平素から財団の運営に何かとご支援、ご協力を頂き感謝申し上げます。

この度、新型コロナウイルス感染症が急激な勢いで世界中に蔓延し、数多くの尊い生命が失われました。
ここに謹んで哀悼の意を表しますとともに罹患された方々を始め、影響をお受けになられた皆様方に心よりお見舞い申し上げます。

またこの間、新型コロナウイルスに立ち向かい、最前線で日夜ご奮闘を重ねられました医療関係者を始めとする数多くの皆様方に対しまして、敬意と感謝を申し上げる次第でございます。

新型コロナウイルス感染拡大により、我が国では3月から学校園が「休校要請」による休校、4月には「緊急事態宣言」が発出され、全国的に不要不急の外出・往来自粛や感染防止対策としての「密閉・密集・密接」いわゆる「三密」を回避するための行動自粛、施設の使用制限、休止の要請など、私たちの生活は様々な制限により大きく変化いたしました。

京都のまちでは、観光客や外国人の姿を見かけることが無くなりました。
私の勤務する地下街も休業を余儀なくされ、商店街や百貨店と共に京都のまちは賑わいを失い、閑散とした地下街を見た時、これまで経験のない事実に向き合わねばなりませんでした。

そして、テレワ-ク導入による働き方改革、子供たちの教育のオンライン活用、AIの導入、さらにはビッグデータの活用といったテクノロジーの進展が、「コロナ社会」を生きる私たちに対し、「新しい生活様式」を求められることとなりました。

5月末には「緊急事態宣言」も全国的に解除され、徐々に日常が戻りつつありますが、新たな感染者が増加するなど決して気持ちを緩めることが出来ない状況が続いています。

一方で、新型コロナウイルス感染拡大の中で見逃すことが出来ない事実として、感染者やその周辺、医療従事者に対する無理解による誹謗・中傷、差別・偏見が相次ぎました。
それは、新たな時代の人と人の交流の場「SNS」です。
時には「凶器」ともなる手段によって多くの人々が傷つけられました。
あってはならないことであり、心を痛めました。

著名人の感染がメディアに報じられ、新型コロナウイルスに対する危機感を高めたことは事実でありますが、一方でアメリカにおける黒人をはじめ社会的に弱い立場に置かれている人々の罹患率と死亡率が格段に高いことも事実であります。
その人の置かれている社会的立場の位置付けから、差別・被差別の関係を生じさせるという実態も明らかになりました。

新型コロナウイルスの感染拡大によって様々な情報に触れ、「三密」の回避の重要性にも理解を示しながら、政府が呼び掛ける「ソーシャルディスタンス」(社会的距離)の表現に対し、「人と人のつながりは?」と違和感を覚える自分がいました。

また、「コロナ禍」の陰で「リバティおおさか」の愛称で親しまれてきました大阪人権博物館が6月1日をもって閉館されました。
様々な経緯があってのことですが、35年間にわたって果たしてこられた役割の大きさを思うと残念でなりません。
部落問題を中心にあらゆる差別を許さない、人権の保障される社会を目指す歴史資料館として、奈良の水平社博物館と共に日本における人権学習の中核的役割を担ってこられました。
2年後には新しい場所で再出発する準備を進めておられるとのことですので、「リバティおおさか」の新たな門出に期待をしています。

と同時に、朝田善之助記念館も朝田善之助初代理事長が収集された5万点に及ぶ史資料を基本としながら、部落問題解決に向けた人材の育成と人権教育啓発の拠点としてこれからの運営を考えたとき、他人事として看過することは出来ません。
確固たる財政基盤と多くの方々のご理解とご支援を賜りながら運営することが出来ている財団として、与えられた使命と役割を果たしていくことの大切さを痛感しております。

朝田委員長が述べられた財団のモットーである「明日の不幸がわかっているのなら、今日変えようじゃないか」という言葉を胸にこうした困難を乗り越える生き方を目指したいと存じます。

さて、こうした社会状況の中で、朝田教育財団も厳しい新年度のスタートとなりました。
4月当初からの予定は全てキャンセルになりました。研修会や視察の受け入れ等は中止となり、記念館も5月末まで休館しました。
会議の持ち方も大きく変化しました。理事会は何とか開催できていますが、6月の評議員会は感染拡大防止のため書面表決による「みなし決議」の方式をとらざるを得ませんでした。
幸い、評議員の皆様にはご理解を頂き、予定された議案等慎重に審議して頂き、議決を得ることが出来ました。本当に感謝です。

また、財団の大きな事業として、毎年、朝田委員長の誕生日を記念し開催して参りました「朝田善之助記念同和教育研修会」も7月3日に予定していましたが、中止せざるを得ませんでした。

今年度は、京都府議会議員であり当財団の評議員でもある平井斉己さんに講師をお願いしていました。

平井斉己さんは、現実に部落解放運動を担っておられる立場からも部落問題が直面する今日的課題等について具体的なご講演を頂く予定でした。
ご準備も進んでいたようでしたが、誠に残念なでございます。次なる機会には必ず・・・、と考えています。
その節には多くの皆様にご参加頂きますようお願い申し上げます。

財団の主要事業である奨学事業についても、今年度は各大学における新型コロナウイルス感染拡大防止対策等の影響が大きく、今のところ新しい奨学生の応募はありません。
しかしながら、緊急事態宣言も解除され、各大学にも学生の姿が戻りつつありますので、新しい奨学生の確保に向けて募集活動を進めて参ります。
会員の皆さんの推薦等、お待ちしています。

一方で、現役の財団奨学生の皆さんも例外なく、今回の「コロナ禍」により厳しい状況に置かれておられます。
とりわけ学習環境の激変は、思いもよらない事態だったと推測いたします。
財団としても奨学生の皆さんに寄り添った対応をしなければならないと考えています。
財団では、この度の「緊急事態宣言」に関わる国及び京都府の支援措置についても申請いたしました。

そして、財団設立40周年、朝田善之助生誕120周年、全国水平社結成100周年を記念した、2022年に予定している周年事業の計画・立案の中では、奨学生の皆さんへ貸与制をとっている奨学金事業について、財団としてできることは限られていますが、給付制との整合性も検討しながら進めていきたいと考えています。

奨学生の皆さんには、厳しい環境の中にあっても前向きに、この経験を糧に自らどう克服するかを考え、将来に活かして頂きたいのです。

財団では、2020年の周年事業の推進に向けてそれぞれの事業ごとに理事の皆さんを担当者にしてチームを編成し作業にあたっています。
できるだけ早く皆さんにお示しできるよう取り組んでいます。ご理解ください。

厳しいお話ばかりになりましたが、収束の暁には、実施できなかった研修会をより充実した形で行うことや、記念館に来て頂けなかった皆さんに、新しい発信をしていきたいと考えています。
今回の事態を経験する中で、私自身、朝田善之助記念館の果たす役割の重要性を今まで以上に感じています。

今後ともご支援ご協力をよろしくお願いします。

理事長就任のごあいさつ

「朝田教育財団だより 第31号 2019年8月」より

朝田教育財団 理事長 水田 雅博

このたび、松井珍男子大先輩の後を引き継ぎ、朝田教育財団の理事長をお引き受けすることになりました水田雅博です。
よろしくお願いいたします。

昨年の春、「朝田善之助記念館」竣工の新聞記事を見ながら、静かに喜びを噛み締めておりました。
その日から8ヶ月経過した本年1月に松井大先輩から、突然、この度の理事長の話を切り出されました。
これまで、財団が主催される行事や研修会には、時々参加をさせて頂く程度でしたので、驚きと言いますか、よもや私が朝田教育財団の理事長になるなど夢にも思わないことでした。
そして、副理事長の朝田華美さんからもお話を頂き、もうお引き受けするしかないと決意した次第です。
といいますのも、この財団の初代の事務局長として運営の基礎を築かれた朝田善三さんと私は、中学生時代の同級生であり、社会人になってからも様々な連携を図る親友としてずっとお付き合いをした仲だったのです。

善三さんは、御父上の事業を受け継ぐ傍ら、財団設立当初から財団の目的である「部落の青少年などの教育を振興するとともに、部落問題に関する研修、啓発および研究を行い、もって部落問題の解決に寄与する」(財団設立趣旨)ことに粉骨砕身、大変精力的に活動されていました。
会うたびに財団の話を熱く語っておられたことを思い出します。
朝田華美さんのお話しを聞いて、そんな彼を想い起こしながら、彼の「志」、「精神」が未来につながるように精一杯努力して参りたいと決意をいたしました。

さて、朝田教育財団は、朝田善之助委員長の生涯の闘いの結晶であります。
そして、先の目的にありますように崇高な理念を示しています。
この理念を私もしっかりと受け止め、財団の主要事業が奨学事業であることは勿論ですが、そうした奨学事業を通じて「人を育てる」こと、さらに差別のない社会に向けて教育・啓発に取り組むことに全力を傾注いたします。

また、朝田善之助記念館が開設されてちょうど1年という歴史の節目に立ち会わせていただくことができて本当に光栄なことと感じています。
記念館には、朝田善之助初代理事長が生前様々な運動を通じて収集された5万点を超える部落問題にかかわる史資料が残されています。
私も書庫と1階と2階にある開架されている図書や史資料等を拝見しました。
運動の中で明らかになっていない資料等も多数存在し、歴史的価値のある本当に素晴らしい史資料が保管されています。
現在「公開」に向けて鋭意準備中ですが、是非とも一度閲覧していただきたいと存じます。

さらに、記念館には朝田善之助さんの往年の居室がそのままに再現され、ここで部落解放について熱く語られていたであろうお姿に想いを馳せ、「朝田学校」を体感することも出来ます。
こうした朝田善之助さんの熱い「魂」を感じつつ、朝田教育財団が差別のない“真に豊かな社会” を実現するために日本の人権問題解決のリーダーシップを発揮できるよう心血を注いで参ります。

一方で、2016年12月に制定施行されました「部落差別の解消の推進に関する法律」は、「部落差別」を具体的な人権問題として取り上げその解消に向けた取り組みを明らかにしました。
そして、この法律を受けて兵庫県のたつの市をはじめとして各地で「部落差別の解消の推進に関する条例」の制定も進められています。
このように、名称の違いはあるものの我国の人権問題を解決する大きなスタートにもなりました。
しかしながら、すでに3年が経過していますが、法律の目指す社会の状況には至っていないのが現状ではないかと思っています。
当財団がそうした社会を変える一翼を担えることができればとも考えています。

とは言いましても、松井大先輩をはじめ歴代理事長の方々のように大きな実績もない私であります。
第7代目の理事長としての大役を果たすことができるかどうか、大変な恐縮とともに不安でいっぱいです。
京都市役所時代、現場の第一線で働く仲間と一緒になり、走り回っていたことだけが取り柄の私でございます。
皆さん方とともにお力添えをいただきながら、朝田教育財団がいよいよ「真の豊かな社会」、「差別のない社会」に手を繋いでいく、そんな大きな役割を果たす仲間の一人として、役割を果たしたいと存じます。

あらためて、朝田善之助初代理事長の生涯の闘いの結晶、財団創立の崇高な理念を胸に刻み、朝田善三さんが築かれた土台を、基盤を、彼の志を皆さん方にしっかりと繋ぐ、その気持ちだけは強く持ちまして、自らを叱咤激励しながら頑張って参ります。

皆さん方のお力添えを是非ともよろしくお願い申し上げまして、理事長就任のご挨拶とさせていただきます。
何卒、よろしくお願い申し上げます。