奨学生の近況3|2024年度 前期

災害復興、社会的コストと「故郷に住む」ことを考える

 

1. 授業・研究、クラブ活動、ボランティア活動など

 

博士後期課程は2年目となるが、研究は順調に進んでおり、より高い質で仕上げられるよう日々邁進したいと思っている。博士研究は昨年から継続して、「令和6年度能登半島地震後の学校移動」に着目した内容となっている。また、修士研究では「東日本大震災」について類似の研究を行っていたが、農山村漁村地域という共通点に着目し、比較・考察することで今後の大規模災害に備えた知見を得たいと考えている。

能登半島地震後、被害の甚大な能登6市町では15の小中学校が自校舎を使えない状態になってしまったが、約1ヶ月後の早期学校再開に際し、被災規模の小さい近隣の他校に「間借りすることになった。受験を控えていた中学3年生を中心に「集団避難」として県の宿泊可能な学習施設に数か月生徒のみで移動するという新たな取り組みもみられた。さらに令和6年度能登豪雨により隣町への間借りをしている小中学校もあり、仮設校舎への移動、更に急速な学校統廃合案が検討される等、この10か月の間でも学校環境やその運営はめまぐるしく変化し続けている。間借り先では8校の小中高校が1つの校舎でともに学習するといった事例をはじめ、環境としては決して良い状態ではないだろうが、学校関係者や子どもたちが努力し、今現在も学校生活を創り上げている。また、市全体が被災したことをきっかけに以前は思いもよらなかった地区内全ての小学校の統合が推し進められる等、本来は丁寧に進めるべき統廃合が災害を契機に急速に進むことへの危惧もある。

このような状況があるということを踏まえて、完全復旧までの学校移動の経過を把握し、「学校という場所が複数回移動する」ことに対しての子どもたち・学校関係者への負担や、他校と同じ校舎での住み分けの実態、市町全体の復興計画と学校復興の在り方について調査・研究している。また早期に学校を再開することに対する是非についても言及していきたいと考えている。

今後、今回の震災に匹敵する災害が生じた際に学校再開への指標になることを願い、博士論文として形にしていきたいと思う。

 

2.「 奨学生の集い・学習会」への期待・要望など

 

今年の夏は研究が忙しく夏の集いに参加できなかったことを残念に思う。部落差別について学ぶことも非常に貴重な機会であるが、財団を通じて様々な大学・学部・学科に通う奨学生に対し、社会人ドクターという特殊な立場からアドバイス等できればと考える。

 

3.差別・人権

 

能登半島地震後、調査で被災者にヒアリングをする中で、生まれ育った地域でこれからどう生きるか選択に迫られている方がたくさん存在する。農山漁村地域では少子高齢化が加速する現状から社会的コストを課題とし、行政はコンパクトシティ化を望んでおり、いくつかの集落がなくなることは想像に容易である。文化・教育資本に簡易にアクセスできることは市街地のメリットである。一方、社会的コストのみを理由に「故郷に住み続けたい」という思いを蔑ろにすることに疑問がある。長い年月をかけて農山村の環境を維持してきた方々がいるからこそ豊かな日本の風景が紡がれてきた。彼らが地域に戻ることによりそれらを守ることができることも念頭におくべきと考える。地域の集約化を進めることで、教育機会をはじめとした不均等を解消できるかもしれないが、「故郷に住む」という住まい方を奪う側面もあり、これも一つの差別ではないだろうか。
現代は交通機関も発達していることから必ずしも集落に住み続けずとも地域を維持できる可能性もある。集落近辺での自宅再建、都心部や市街地との2拠点化等、住まい方や関わり方の多様性が選択できることこそが、豊かな社会や生き方の一つであるのではないだろうか。

 

大学院 博士後期課程 2年生 H.M.さん