奨学生の近況1|2015年度 後期

「選択的夫婦別姓制度導入について」

 

私の妻は韓国籍である。大学時代から韓国姓で生活を送っている。しかし「私の」戸籍上は、「上杉」の姓で登録されており、役所から届く書類は必ず「上杉」で届く。子供たちは「上杉」を名乗っているので、保護者の間では「上杉」で済ませている。それほど長くかつ深く付き合う必要がないため、韓国姓で生活していることを説明する方が手間がかかるのである。私のケースは国籍が違うという特別な例であるが、日本国籍同士の結婚における夫婦別姓の問題はそう遠くない将来に法制化されるのではないかと考える。

 

現在、法律婚をする場合には民法第750条により「夫婦は婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」としている。つまり、夫と妻のどちらの姓を名乗ってもよいことになっている。
しかし、実際には95%以上の夫婦が夫の姓を選択している。これは先の明治民法の「家」制度が今も受け継がれている証拠と考えられる。戦後このような「家」制度をなくし、上記の現行民法が制定されたが、これでは夫婦のどちらかが改姓しなければならないことになっている。

 

結婚して改姓することは、日常生活において不都合を感じることも少なくない。これまで生きてきた姓と違う姓で生きてゆくことを、新しい生活の始まりと捉える人も多いことは確かであるが、中には改姓することによって自分を見失うような感覚に陥ってしまう人もいる。また、運転免許証や銀行の通帳の名義変更などでは煩わしい手続きをとらなければならないことも面倒である。さらに職場で名前よりも姓で呼ばれていることが多いため、姓が変わると仕事相手に対して混乱をきたすことがある。ほとんどの女性が夫の姓を名乗ることで、結婚やさらには離婚のような個人のプライバシーを公にさらすことになる。とくに離婚の場合には、なるべく触れられたくない女性も多いので、改姓によってプライバシーを知られてしまうことは問題である。

 

このように女性が結婚改姓によって被る不合理に対して、法律婚の形態をとらずに事実婚を選択する夫婦もいる。また、法律上は妻が改姓しても、日常生活の場では旧姓を使い続ける夫婦もいる。しかし、公的書類や口座の名義は戸籍上の姓を要求されるので、細かなトラブルが起きやすい。

 

そこで、夫婦別姓を選択できるような制度を導入すべきだという声が1980年代後半から高まってきた。当時の与党自由民主党は選択的夫婦別姓制度を法案化しようとしたが、党内の反対意見が強く法案化できなかった。その後、野党側から数回にわたり選択的夫婦別姓法案が国会提出されたが、審議されないまま廃案になっている。

 

夫婦別姓に反対している人々は、夫婦別姓を認めると家族の絆が薄れてしまうと主張している。子どもの姓を夫婦のどちらにするかという問題もあり、家族が同じ姓でなければバラバラになってしまうというのである。また、これは日本の伝統的家族のあり方であるので、日本文化を破壊するものであると主張する人もいる。しかし、夫婦同姓が法制度化されたのは明治31年民法からであり、江戸時代には武士以外は苗字の使用は禁止されていた。よって夫婦同姓による家族の形態ができて、たかだか120年ほどのことに過ぎない。これを伝統・文化というには歴史が浅くはないだろうか。

 

これまで見てきたように、結婚改姓が日常生活に少なからず影響を及ぼしており、そのことにストレスを感じる人が増えてきている。また、ライフスタイルの多様性により、さまざまな家族のありようを社会が認め始めている。しかし、夫婦同姓があたりまえで、家族は同じ姓であるべきという人はまだまだ多くいる。選択的夫婦別姓法案はすべての人に対して同姓を認めないのではなく、あくまでも夫婦関係において夫婦別姓を選択できる制度である。制度によって姓を強制されるのではなく、生き方を自分で決められるような制度が必要である。その一つに選択的夫婦別姓制度が位置付けられると考える。制度が変われば社会の規範も変化していくはずである。

 

 

大学 公共政策学部 福祉社会学科 卒業 S.Uさん